前述のサウンディングには12者が応募。
市が公募する要件として出していた案に対し以下のような意見が聞かれました。
公募を徹底解説!
上記、サウンディングでの民間事業者の意見を受け、さいたま市内では、本事業の実現に向け現実的な条件設定の検討を重ねました。結果、サウンディング時から公募の間で、最も大きく変化した条件は、金額。併せて、貸付期間、スキームも整理されました。今回は、この公募について、ポイントや難解な点を解説します。
【ポイント1】ねらい
公募要項の冒頭には、デーン!と「この図書館はこんな風に使うんだー!」
という、さいたま市の意思が書いてあってほしい、とみなさん願うようですね。
しかし、この建物はそもそも行政では廃止しようと思っていたもので、民間で使いたい人がいたら貸しますよ、というスタンスであるため、行政からは、一銭もお金を出さない前提なのですね。したがって、金をださないので、口もだせない…という考え方であるため、極力、民間の自由な意思を尊重するため、行政から用途の指定などはありません。
しかし、決して手放しなわけではなく。控えめに、婉曲的に、関連する各種計画の中での、旧図書館の位置付けをほのめかしています。
その中でも、この事業の趣旨として2点注目したいのが
①氷川参道との繋がり
②連鎖型まちづくりの中での図書館のポジション
です。
①氷川参道との繋がり
大宮には武蔵国の一宮であった、氷川神社があり、その参道が非常に美しいのです。関東居住者ですら知らないほどの知名度なのですが、市民には愛されているこの参道。新図書館・区役所も参道沿いなので、この通りでつながったらとても素敵。大宮の象徴として、シビックプライドアップにも貢献しそうです。歴史文化軸と駅からの賑わい軸の結節点にあるため、図書館を建物としてだけみずに、この通りとの関係性や、駅からの回遊動線も大切にした提案が求められているのではないでしょうか。
②連鎖型まちづくりの中での図書館の位置付け
また、大宮駅東口では、新区役所・図書館を起点とした「地域連携拠点」、駅前再開発計画が進行中の「駅前賑わい拠点」、そしてこの旧大宮図書館を中心とした「氷川神社周辺エリア」の3地点を設定し、公共施設再編による連鎖型まちづくりを進めています。
せっかくなら、それら公共施設のオーナーであるさいたま市が指揮をとって、各エリアの役割分担をし、市民のまちの使い方のデザインをリードしていこう、という戦略です。
その中で、旧図書館は市民に愛されていた図書館だった記憶や、氷川参道の入り口という象徴的な立地であることから、大宮らしさ、さいたまらしさを表現するにはうってつけの交流拠点であり、地域経済循環を促す、いわゆるローカルテナントの入居が期待されます。駅前の「賑わい拠点」の役割は、立地的にも、広さ的にも、経済的にも、ナショナルテナントが入居していくはず。ということで、やんわりとではありますが、こちらはローカル、あちらはナショナルのような性格づけがなされています。歴史文化や大宮「らしさ」を大切にした提案を求めている、ということですね。
【ポイント2】スキーム
今回のスキームは旧図書館の建物を、さいたま市が民間事業者に、定期借地契約で貸し付けるというもの。民間事業者が自らリスクを負って、建物を借り、改修して活用する民間不動産に限りなく近いもの。従来の委託事業などとは全く異なるので、注意です
サウンディングでは、①丸ごと建物を借りるパターン、②テナントとして入居するパターンという、大きく2つの可能性について意見を募集しました。が、今回公募では丸ごと借りる民間事業者、いわゆる「マスターリーサー」を募集する公募となりました。
マスターリーサーからは、どんなコンセプトのもと、どんなテナントがはいり、どんな人がどんな活動にするのか…といった具体的な提案をいただくため、今回、様式集に「関心表明書」というのがついています。応募者となるマスターリーサーは、できるだけテナントと事業内容や金額を握って、関心表明をゲットしてから応募に臨むと説得力のある提案となりそうです。
ここでひとつ、留意点。この「関心表明書」ですが、1テナントから複数のマスターリーサーに提出しても問題がないということ。テナント側は、どのマスターリーサーと組めば、実現性が高いか?と、悶々とせずとも、純粋に事業内容のおもしろさで(もちろん責任をもちつつ)、よいと思う事業パートナーとは、気軽に手を結べるようになっています。
【ポイント3】貸付対象範囲の考え方
サウンディング時は、借りたい面積を記入するようになっていましたが、テナント募集でなく、マスターリーサーの募集になったことから、建物を丸ごと借りるのが大前提となりました。選択肢としては、対象敷地の駐車場まで含むか含まないかの2択。それによって賃料が変わってきます。
【ポイント4】期間
サウンディング時は貸付期間を5年で提示していましたが、初期投資の回収期間を考慮し5年以上10年以下に延長しました。建物の老朽化と隣接する博物館との一体的な活用が見込まれているため、10年後の更新は見込めないと思った方がよさそうです。
【ポイント5】価格
この価格の読み取り方が、本公募の最難関。目標価格と貸付最低価格の2種類が提示されています。どう読み解けばいいのか。
まず、サウンディング時に提示した、一般的な公共施設の貸し出し賃料基準では事業性が合わず借り手がつかないことが発覚。
それもそのはず、旧図書館は築48 年で、空調や上下水道など設備面がボロボロ。この修繕費を民間事業者に全負担させた上で、さらに賃料も支払ってもらうということになるので、一般的な基準を適応するのは難しいですよね。(市が手放そうと思っていた施設にしては、けっこうがめついなぁ…笑)
というわけで、市としては民間事業者の声を真摯に受け止め、頑張りました。というのが、この分かりにくい表現に見て取れるかと。
行政のルールって、本当に非合理的なものが多い。
立地も建物状況も違う施設でも、一律で貸付の基準価格が決まっている。本来、そのルール自体が市場原理と乖離しており、合理性がないわけですが、今回の場合も例に漏れず、なんらか特別な理屈がなくては、そのルールを下回る金額で貸し出せないのこと。その特別な理屈がこの2つの価格。
①目標価格
行政が民間に施設を貸し出す金額設定には論理的根拠が必要。ということで、目標価格としては、行政がこの建物を貸し出すことで、将来、行政が負担するであろう解体費用を、民間からの賃料でまかなえるメリットを論理的根拠としました。撤去には約2.5億円かかるとされていたので、民間に5~10年貸し出すと2.5億円に達する賃料を目標価格として設定しました。
②貸付最低価格
ただ、そうは言ってもですよ。本来、行政が貸主として、少なくとも建物が貸し出せる状況に空調や水回りの整備をしておくべきところ、何も手を入れない。どころか、政策的に観光協会を入居させてくださいという不利な条件を追加してきているわけですから、そこは民間の多大な負担を慮る必要がある、ということで、最低限、固定資産税(都市計画税も含む)相当額はほしい、という下限ラインも設けました。
固定資産税を計算すると、建物+駐車場で931万円/年、建物だけを借りた場合は675万円/年になります。
というわけで、本当は①ほしいんだよ、でも無理なら、最低②でもいいよ、と、一応行政なりの態度もしめしつつ、民間にも寄り添ったみたいな、行政の独り言のような表現に落ち着いた模様です。が、要するに、最低価格は駐車場含め、931万円/年だ、ということを理解すればOKそうです!
【ポイント6】さいたま観光国際協会の入居
今回の公募の特徴の一つが、さいたま観光国際協会(以下、「観光協会」)の入居が前提であるということ。現在は駅西口のビルに入居している観光協会が、本事業を機に、大宮の一番の観光資源である氷川神社の参道に移転し、観光拠点性を高めたいという意図だそう。しかし、困ったことに430㎡程度は欲しいと言っているにもかかわらず、「いくらで」の表記がないこと。入居するテナントたちと連携して、新たなサービスを提供することを希望しているため、そこは不確定となっているようです。マスターリーサーとなる企業は必ず事前に、広さ、入居場所、事業内容、家賃の交渉を。観光協会との協議についても、担当課の東口まちづくり事務所経由で、申込んでほしいとのことです。
【ポイント7】改修費見積もり(現地調査)
本事業では改修費用はすべて民間事業者が負担するため、大きく事業性を左右するファクターであり、現状の建物をよく調べて改修費用を見積もることが必須です。かなり設備面の老朽化が激しく、サウンディングにあたり、市から提示された改修費用だと5,800万円程度とのことでしたが、サウンディングに参加された企業さんからは数億かかるのではというもご指摘も!?施設の現地調査については、随時相談に乗ってくれるようで、担当の東口まちづくり事務所までにお問い合わせてほしいとのこと。
【ポイント8】評価
最終的に、この公募は何を大切にしているのか?評価の配点を見てみましょう。ずばり、内容評価:価格評価=90:10。
つまり、重視されているのは、圧倒的に提案内容。大宮というまち、そして氷川参道の新拠点となるおもしろい事業を選びたい、という内容勝負。ここまであれこれと要項の解説してきましたが、突然、ここへきて強烈な行政の意思を感じますね!!!
市民が日常使いでき、それによって地域の小さな経済循環がまわっていくような、そんなローカルな拠点となる尖った事業提案。図書館の建物もかっこよく、氷川参道という都会のオアシスのような立地も魅力的なこの事業。大宮の未来をつくる提案、とっても楽しみですね!
【再延長】今後のスケジュールについて
※ 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、スケジュールが延期となりましたが(3月4日時点)、緊急事態宣言の延長を受け再延期となりました(5月7日時点)。
※ 3月12日(木)に開催を予定しておりました「旧大宮図書館施設活用事業 説明会・現地見学会」は中止となり、公募要項に関してご質問がある方につきましては、「様式2 質問書」によって受け付けるとともに、現地見学を個別の対応として受け付けています。
・「旧大宮図書館施設活用事業 説明会・現地見学会」中止のお知らせ(さいたま市HP)
・【再延長】旧大宮図書館施設活用事業における事業者を公募します!(さいたま市HP)
○スケジュール(変更後)
令和2年2月20日(木) 公募要項の公表
令和2年3月12日(木) 【中止】説明会・現地見学会→個別対応に変更
令和2年5月15日(金)まで 質問の受付(回答は5月22日までにさいたま市HPへ掲載)
令和2年6月12日(金)まで 参加表明書類の提出
令和2年7月10日(金)まで 提案書類の提出
令和2年7月上旬 第一次審査
令和2年8月上旬 第二次審査(書類およびプレゼンテーション)
令和2年8月中旬 優先交渉権者の決定
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建物や立地の魅力などについては他のプロジェクト記事をご覧ください。
さいたま市 『旧大宮図書館の可能性を探る』イベントレポート
[9/29]さいたま市 旧大宮図書館の新たな可能性を探るトークイベント開催!
ステータス:募集終了
所在地:さいたま市大宮区高鼻町2-1-1
交通:JR大宮駅から徒歩12分
価格:最低貸付価格:9,310,000円/年(建物・駐車場の場合)
期間:公募期間(変更後):2020.2.20〜2020.7.10
募集要項:旧大宮図書館施設活用についての事業者公募を実施します!
問い合わせ先:大宮駅東口まちづくり事務所 事業推進係