スポーツ×公共空間 でまちを変える
スポーツ×公共空間 でまちを変える

スポーツとまちづくりの関係性とは?|「スポーツ×公共空間」でまちを変える vol.1

全国各地でスポーツによるまちづくりの潮流が高まっています。スポーツチームがまちのコミュニティを支えていたり、教育に貢献したり、さらには地域に新たな経済効果を生み出し、公共施設活用のコンテンツとなるケースも。スポーツが持つ可能性を、地域ブランディングや課題解決の切り口から考えていく本連載。スポーツを切り口とした公共空間再生の事例紹介やキーマンへのインタビューなどをお届けします。

みなさん、こんにちは。「株式会社hincha(インチャ)」の桜井雄一朗と申します。「スポーツを街の文化にする」を信念に、スポーツ× 建築・まちづくりの領域で企画会社の代表を務めています。スポーツの力を活かして、人の想いが集まる場と仕組みをつくることで、都市に活気を生みたいと思い、さまざまなプロジェクトに取り組んでいます。

今回は連載の第一回として、「スポーツ」の存在をあらためて見つめ直し、スポーツとまちづくりの関係性について考えていきたいと思います。

そもそもスポーツとは?

そもそも「スポーツ」とは何なのか。決してプロスポーツやアスリートに限るものではなく、フィジカルに鍛えることだけでもありません。文部科学省が定めた「第二期スポーツ基本計画」では、スポーツとは「身体を動かすという人間の本源的な欲求に応え、精神的充足をもたらすもの(一部抜粋)」と定義されています。

さらにスポーツの語源は諸説ありますが、そのひとつはラテン語の「deportare(デポルターレ)」とされています。この語は 「de(=away)」と「portare(=carry)」の2つが組み合わさった単語で、人間の生存に必要不可欠なこと(運搬≒労働)から一時的に離れる、すなわち気晴らしをする、休養する、楽しむ、遊ぶことなどを意味しています。 

つまりスポーツはそれぞれの適性や志向に応じて自由に楽しめる「みんなのもの」であり、娯楽であるとされているのです。

スポーツへの関わり方
「する」「みる」「ささえる」

スポーツとの関わり方は「する」ことだけに留まりません。スポーツ庁のHPでは、「する」「みる」「ささえる」と3つに分類されています。

オリンピックやサッカー、ラグビーのワールドカップをテレビやスタジアムで観戦したり応援したという方も多いでしょう。私たちはスポーツを「みる」ことによって、自己との戦いに身を投じる一流アスリートの姿に心を震わせ、勇気をもらうことができます。

スポーツを「ささえる」とは、「自らの意思でスポーツを支援すること」と定義されています。指導者や専門家による支援だけでなく、サポーターやボランティアなどさまざまな関わり方があり、スポーツに参画する裾野が広がりつつあります。

スポーツ庁「スポーツ基本計画の解説」では「する」「みる」「ささえる」を通じた「スポーツ参画人口の拡大」を掲げている
(2017年4月「第2期スポーツ基本計画~スポーツが変える。未来を創る。~」P3)
出典: https://www.mext.go.jp/sports/content/jsa_kihon02_slide.pdf

このように、スポーツは「する」だけでなく「みる」「ささえる」ことも含めた多様な関わりによってその魅力を拡大して、多くの人に価値を届けています。

普段運動をしない人も、運動が苦手な人も、スポーツに関わって楽しむことはできます。そして、スポーツは日常生活の一部であり、あらゆる人の人生に活力や感動を与えてくれるものであります。つまり、スポーツは目的でもあり、手段にもなり得るのです。

まちを変える「手段」としてのスポーツ

スポーツを手段とした場合、人だけでなく都市にもあらゆる価値を生み出していきます。その一例として、「機能的価値」「社会的価値」「経済的価値」が挙げられます。

「機能的価値」については、身体を動かすことで心身ともに健康になったり、その結果として健康寿命の延伸に繋がったり、また教育プログラムとしてスポーツを導入することで個人の能力の成長に寄与することも考えられます。
「社会的価値」については、スポーツが持つ人と人をつなげる力によって、コミュニティの形成に寄与することがあります。また、佐賀県佐賀市の廃校を活用したスポーツ合宿施設「SAGA FURUYU CAMP」のように、スポーツが都市に存在する社会課題と結びつくケースが挙げられます。

佐賀市の「SAGA FURYU CAMP」。古湯温泉エリアにある廃校をリノベーションし、地域の新たな拠点となるスポーツ合宿施設として生まれ変わった。写真:阿野太一

スポーツを通じて人や地域のつながりが強くなることで「経済的価値」を生み出すことも考えられます。マラソンや自転車の大会を誘致することで都市全体がスポーツの舞台となり、街の活気を高め、ツーリズムの観点から経済的にもインパクトを生み出すこともその一例です。スポーツによって生まれる相乗効果が周辺の産業に広がっていくことも、またスポーツの魅力であり、大きな価値になります。

このように社会の広範囲に影響を与えるスポーツは、大前提として「みんなのもの」であり、公共的な側面も持ち合わせています。スポーツに関連する事業は民間企業によるものが多いですが、そこには経済的な価値だけではなく、社会的な価値を創出する特性があることも認識しなければなりません。

欧州ではサッカークラブが都市のアイデンティティに

都市とスポーツとの関わり方について、スペインの事例を2つ紹介します。スポーツと都市のアイデンティティとが深く結びついていることがうかがい知れる事例です。

・バルセロナ
バルセロナには、世界的に有名なサッカークラブ「FCバルセロナ(Fútbol Club Barcelona)」があります。そこでは「クラブ以上の存在(カタルーニャ語: MÉS QUE UN CLUB)」がクラブのスローガンになっており、ユニフォームの後襟にもこの言葉がプリントされていたり、スタジアムの客席にも示されたりしています。地元では「カタルーニャ民族主義の精神の現れ」「FCバルセロナはカタルーニャ民族主義の象徴である」などと認識されています。

ホームスタジアム「カンプ・ノウ」のスタンドには「MÉS QUE UN CLUB」の文字が刻まれています。Aliaksandr – stock.adobe.com

・ビルバオ
グッゲンハイム美術館が有名な観光の街、ビルバオには「アスレティック・ビルバオ(Athletic Club de Bilbao)」というサッカークラブがあります。1912年に外国人選手が退団して以降、契約するプロ選手はバスク州出身者のみで構成されていて、バスク地域の誇りや象徴になっているクラブです。

「アスレチック・ビルバオ」のエンブレムは、ビルバオのシンボルである石造のアーチ橋とサンアントン教会のイラストと、州旗の赤✕白をストライプで表現したものになっています。fifg – stock.adobe.com

実は「FCバルセロナ」も「アスレティック・ビルバオ」も株式会社化されていません。「ソシオ(socios)」と呼ばれる組合員によってチームが所有され、経営されています。仕組みとしては、組合員から会費を募りその資金でクラブを運営しており、クラブが都市や市民にとって“自分ごと”であることを象徴しています。

ドイツのクラブ制度「フェライン」

ドイツには、地域でスポーツに関わることが出来るクラブ「フェライン」が存在します。ドイツの人口約8,000万人のうち、2,400万人がフェラインの会員となっています。

ドイツではスポーツは学校でするものではなく、地域のクラブで行うものという考え方が一般的です。フェラインによって、子どもからシニアまで老若男女が生涯スポーツに関われるという環境が整っているため、国全体としてスポーツ文化が成熟してきました。

フェラインは、日本でいうと特定非営利活動法人(NPO)に近い存在です。単にスポーツをするだけでなく(する)、みんなでトップチームを応援したり(みる)、地域でのボランティア活動を通じてスポーツを支える仕組みがあったり(ささえる)、フェラインというクラブが地域の社交場としても機能しているのが特徴です。フェラインについては、本連載で詳しく取り上げていきます。

遊休化した公共空間の活用も大きなポイントに

これらは数ある例の一部に過ぎません。この連載では、国内外問わず、スポーツを生かしたまちづくりを実施する自治体やその事業の仕組みなど、先進事例の紹介やキーマンへのインタビューなどを交えながら、都市とスポーツの関わり方を紹介していきたいと思います。

またスポーツには「場」が必要です。遊休化した公共空間の利活用は、地方都市における社会的課題の解決や価値の創出において、ひとつの大きな鍵となってくることでしょう。スポーツにはどのような「場」が望ましいのか、公共空間が現状抱えている課題をふまえて、施設のあり方(ハード)や使い方(ソフト)を捉え直すことでどんな価値を生み出せるのかも本連載のテーマとして取り上げていきます。

この連載を通じて、スポーツと都市との関係について、みなさんと議論していければと思います。どうぞお楽しみに!

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