公共R不動産の頭の中
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「ウォーカブルなまちづくり」の本質に迫る!
国土交通省都市局担当者が語る政策の意図とは(後編)

6月3日に、ウォーカブル推進法(改正都市再生特別措置法)が成立し、さまざまな自治体でウォーカブル推進都市に対する政策が立てられ、試行錯誤が始まっています。そうした試みはどのような都市ビジョンにつながっていくのでしょうか。

左から馬場正尊、墳崎正俊氏、城麻実氏。(撮影:公共R不動産)

ウォーカブル政策のきっかけになった、「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」。その開催元である国土交通省都市局の担当者、墳崎正俊さん、城麻実さんをお招きし、懇親会の副座長を務めた馬場正尊とともに、政策立案の経緯と今後の展望について伺うイベントを6月30日に行いました。その様子をレポートします。司会は公共R不動産コーディネーターの飯石藍が務めます。
前編では懇談会から法改正までの経緯について伺いました。後編は実際の法改正のポイントについて読み解いていきます。

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「ウォーカブルなまちづくり」の本質に迫る!
国土交通省都市局担当者が語る政策の意図とは(前編)

【まちなかウォーカブル政策の経緯まとめ】
2019年2月 「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」設置
2019年6月 懇談会中間とりまとめ
2019年6月 国土交通大臣指示
2019年7月 「ウォーカブル推進都市」の募集
2019年7月 「まちなか公共空間等における「芝生地の造成・管理に関する懇談会」(スピンオフ①)
2019年8月 「ストリートデザイン懇談会」(スピンオフ②)
 2019年9月「今後の市街地整備のあり方に関する検討会」(スピンオフ③)
2019年8月 「まちなかウォーカブル推進プログラム」(概算要求版)
2019年12月 「まちなかウォーカブル推進プログラム」(予算決定時版)
2020年2月 都市再生特別措置法等の一部改正法案(閣議決定)
2020年6月 成立・公布
2020年9月上旬 施行(予定)

法律用語に埋め込まれた意思

馬場 城さんにもお話を聞いていきたいです。こうやって乱暴につくられた方針を政策に転換してね、とパスされたわけですが(笑)、それを受け止め、どうやって法制化していくのでしょうか。国の思考のメカニズムのようなものを伺えればと思います。

 先ほどの議論の振り返りからも分かるように、政策の対象として意識すべき方が本当に多様なので、法律や制度に落とし込む中で、「多様であること」をいかに失わないようにするかを考えていました。せっかく半年間行われてきた多様な視点からの議論をできるだけ狭めないようにしたいという気持ちが一番強かったです。

法制化の過程で、対象区域や、対象とする人についても定義する必要がありますが、それについてもかなり議論をし、最終的に区域の定義を「快適性と魅力を向上させる区域」としています。また対象とする人については、居住する人、外からくる人、そこで働く人など、とにかくそこにいる人すべて、と定義することで、保育の話からビジネスの話までなるべくいろんな要素を含んだまま落とし込むように心がけました。
文言の細かな話になるのですが、法律の審査時に、「交流」と「滞在」のどちらを重視するのか、という問いかけがありました。もちろん「交流」は、それによってイノベーションが生まれやすくなるから大事ではあるのですが、ではひとりでいることが否定されていい訳ではありません。大勢でもひとりでも居心地よくいられることが大事だということから、「滞在及び交流」という両方が入った文言で最終形としました。

「都市再生特別措置法(改正後)」上の「ウォーカブル区域(滞在快適性等向上区域)」の定義(第46条第2項第5号)
五 第一号の区域のうち、滞在者等の滞在及び交流の促進を図るため、円滑かつ快適な歩行の確保に資する歩道の拡幅その他の道路の整備、多様な滞在者等の交流の拠点の形成に資する都市公園の整備、良好な景観の形成に資する店舗その他の滞在者等の利便の増進に寄与する建築物の開放性を高めるための改築又は色彩の変更その他の滞在の快適性及び魅力の向上(以下この条において「滞在の快適性等の向上」という。)のために必要な公共公益施設の整備又は管理を行う必要があると認められる区域(以下「滞在快適性等向上区域」という。)を定める場合にあっては、その区域
 ※「滞在者等」=滞在者、来訪者又は居住者

馬場 面白いですね。多様性を担保して、孤独なおじさんも子どもも許容するために、あえて「交流」だけではなく「滞在」も入れたんですね。そうやって法律の言葉が定義されていくんだなあ。

 そうですね。交流も滞在も、その両方が同じように大事と捉える、という意図を込めています。

都市再生特別措置法改正案を読み解く!

馬場 ではそれを踏まえてどういう法律が成立して、それぞれのコアについて説明してもらえますか?

 一番のポイントとしては、官と民がお互いに既存のストックを出し合って、居心地のいい空間をつくることにより、人が来たくなるような都市にしようということです。そうして出来上がった空間をいかに使いやすくするか、という視点で、具体的な各種措置を講じることとしました。

都市再生特別措置法一部改正には大きく分けて二つのポイントがある。

 まず、スライド上部分の「居心地が良く歩きたくなる」まちなかづくりに向けた計画の策定・共有についてです。市町村・都市再生協議会を中心に、様々なプレイヤーを楕円で囲んでいる図があります。今回、まちづくり計画に「居心地が良く歩きたくなる」まちなかエリアとそこでの取り組みを位置付けるにあたって、それを議論する場である協議会の組織メンバーに、官民の多様な関係者を追加することを可能にしました。

「市町村都市再生協議会の構成委員の拡充等」における改正ポイント。「密接な関係を有する者」が肝!

 今の制度でもまちづくり計画を議論するための協議会制度はあるのですが、ウォーカブルな空間を形成しようとすれば、公共交通事業者や、公共空間の管理者などの関わりが大切になってきます。
また、特にポイントとなるのが「密接な関係を有する者」というところです。ここは結構反響がありました。これまでは、「まちづくり活動をする人」と当事者中心の構成としていたのですが、今回「密接な関係を有する者」と幅を広げました。このように、多様な関係者を広く巻き込めるようにして、官民が共に議論できる枠組みをつくるのが狙いでした。
さらに、予算についても、この協議会に限ったものではありませんが、官民の多様な関係者からなるプラットフォームの形成に対して支援することとしました。

スライド下部分の、計画に基づく「居心地が良く歩きたくなる」空間の創出についても説明いたします。
今までの公共空間の整備・活用は、どうしても広場を整備したり、歩道を広げたり、といった行政側のアクションがメインだったところ、民間も行政の整えた空間を使うだけではなくて、自らオープンスペースを提供することで、官民の空間を一体的に利活用していこう、というのが最大のポイントです。そこにいる人にとっては官地か民地という区分は関係ありませんから。これが「 一体型滞在快適性等向上事業 」です。

先進事例として挙げられる品川区天王洲の水辺空間。 運河沿いのエリアにおいて、民間が所有地とそれに隣接する区有地上に一体的なボードウォークを整備(区有地部分は区に譲渡)し、民間が両者を一体的に管理。民地部分にはパラソル、テーブル、イス等を日常的に設置し、イベント開催時には、民間が区有地部分を占用して一体的に使っている。(撮影:公共R不動産)

 そうした官民一体の取組みを支えるために、様々な法律上の措置を散りばめていきました。
具体的には、公園という都市の中の貴重なオープンスペースに、カフェや売店などを民間のノウハウを使って設置しやすくする「都市公園における官民協定に基づくカフェ等の設置・管理」、公共空間を使用する際の手続について、まちづくり会社などがしっかりサポートできるようにする「都市再生推進法人を経由した占用許可等の申請」、賑わい空間となるウォーカブルエリア内のメインストリートなどについて、車の通行によって歩行者の円滑な通行が妨げられないよう、駐車場の出入口の位置をメインストリート側ではなく裏道側に設置するようにする「駐車場出入口の設置制限」などを位置付けています。

左 一体型滞在快適性等向上事業 右 都市公園における官民協定に基づくカフェ等の設置・管理
左 都市再生推進法人を経由した占有許可等の申請 右 駐車場出入口の設置制限等(路外駐車場)

馬場 ありがとうございます。こうした法改正の中で新しく登場した「居心地の良い」とか「滞在」という単語、これは機能主義からは決して出てこないものだと思います。ぼんやりとそこにいることが許容されている空間が改めて法律として再定義されていることが、すごくコンセプチュアルな面で大きな特徴だと思いました。

もうひとつ大きく違うのは、必ずしも行政主導ではないということ。民間企業や民間組織からも提案を上げていけるし、予算も付くという点なんですよね。もちろん最終的には公民連携でなくてはいけないのですが、民間からも直接行政に提案できる制度が整った、という解釈でよいのでしょうか。

 そうですね。民間からも市町村に計画の作成等を提案ができるという措置も設けています。もちろん、始まりは民間主導でも、行政側にも取り組む意思がないと、民間だけが走ってもうまく進まないことから、最後は官民一緒に実現してもらうことが必要です。

墳崎 この法制度が整ったことによって、民間からの提案も、法律に基づく提案になります。それは行政としては相当プレッシャーになるんですね。今までは法的な根拠がなかったのですが、これからは「都市再生特別措置法第46条の2に基づく提案です」と言って提出すると、市町村も受け取り方が変わってくるはずです。つまり民間からの提案に対して何かしらリアクションしなくてはいけない義務が発生しますので、そこはすごく大きなポイントです。

馬場 なるほど、そういう風に読み解くのか!

 実は法律の中には、「市町村は、提案を踏まえて計画の作成又は変更するかどうか判断し、提案者に結果と理由を通知すること」という一文が入っています。民間から出てくる提案も様々ではあると思いますが、市町村は、提案の内容について検討した上で回答することとしています。その代わりに民間の方にも、きちんと都市再生の方向性にあった提案とすることを求めています。

馬場 それは、これを聞いている民間企業の方にとっては大きな考え方の発見ですね。公共空間でやってみたいアイデアがあれば、法律に基づいて行政に提案できる。石をただ闇雲に投げるのではない持っていき方ができるようなポジティブなトラップを国の方でも仕掛けていると言えるわけか。それはすごいことだなあ。

同時に何かウォーカブル政策を動かしたい、と悶々としている若手公務員も、民間企業に提案してもらうことで、「法律に基づき提案がありました」と上にあげて、動かしていくことができたりするわけですね(笑)。

墳崎 もちろん、民間との信頼関係でつくり上げていく方が絶対にうまくいきますから(笑)。最後はこういうツールもあるよということですね。

馬場 結局、官と民がいかにして同じ船に乗るか、ということですよね。国としてもそういう形が望ましいと思っていると。

エリアの設定にセンスが現れる?!

馬場 先ほどエリアの設定について少し触れていましたが、もう少し詳しく教えていただけますか。

 通称「居心地が良く歩きたくなるまちなかエリア」(=まちなかウォーカブルエリア)、法律用語では「滞在快適性等向上区域」という堅い名前なのですが(笑)、つまり滞在者の方々の快適性等をいかに高めるかを考えて、そのための事業を行う必要がある区域、という定義にしています。まちなかウォーカブルエリアは「滞在と交流の促進のため」に必要な事業を行う区域ということです。

馬場 これも本当に重要なポイントだと思うのですが、これから、「まちなかウォーカブルエリア」を都市の中のどこにどう設定するか、というところにすごくその街のセンスが要求されると思うんです。
単純に、既存の中心市街地だからといって、この辺かな、と旧中心市街地活性化事業の区域と無造作に重ねたりしても、全然説得力がないと思います。
なぜこの「居心地が良く歩きたくなるまちなかエリア」をここに設定しているか、というところに、その質やレベルが見えてくる、という気がします。
このエリアの大体の広さ、というのは想定されているんですか?

 エリアの設定の仕方について、目安となる数値を設定するかどうかは、確かに悩ましい点でした。結局、一律に数値で決めることはせず、普通に人が歩ける半径1kmくらいのエリアに絞るのか、それとも、公共交通も使いながら少し広めに設定するのか、そこは市町村に委ねる形としています。ただ、「歩きたくなるまちなか」というのが前提なので、あまり間延びしたエリア設定とすることは想定していません。歩いていろんなところに立ち寄って滞在・交流が無理なくできる範囲、というイメージです。

墳崎 このエリアの設定がこの法律のすべての前提となります。つまり法律に基づく予算の交付、税制の特例などは、すべてこの「まちなかウォーカブルエリア」が決まってから進みます。従って、自治体によっては色々なインセンティブをとにかくほしいから、区域はとりあえず広めに張っておこうという発想になってしまうかもしれませんが、そこは我々としても、エリア設定が形骸化しないようによく見ています、ということはお伝えしておきたいです。

馬場 なんとなくで設定しているとすぐバレるぞと(笑)。なぜそのエリアに設定しているか、というところの戦略が重要なんですね。

墳崎 そうですね。たとえば清水義次さんが提言するように直径400m内くらいが適切なのか。またはベンチをポイントごとに設置したり、スローモビリティみたいなものを組み合わせればもうちょっと長い距離も歩けるかもしれない。これは地域によっていろんな議論、いろんな形があってよいと思います。あまり国の方でガチガチに決めるのもよくないだろうというのもあって、定量的な要件にはせずボヤッとさせていますが、だからと言ってボヤどころかボヤボヤッとさせるのはご勘弁ください(笑)。

馬場 このエリアの設定こそが肝なのに、そこに無自覚な自治体が多いなということが僕の印象です。最初から広く設定せずに、まずはギュッと絞ったエリアで試してみる。そこでうまく行ったら、次はさらに別のエリアを設定して、エリア同士をコネクトする、みたいな考え方もあるわけですよね。

墳崎 そうですね。我々は姫路の駅前をひとつのモデルケースとして捉えているのですが、駅前のウォーカブル空間の背後に昔ながらのすごくいい商店街がありますよね。姫路の場合、その商店街と駅前のウォーカブルなエリアをいかに繋げるか、というのが課題だと思います。ですから、この「居心地が良く歩きたくなるまちなかエリア」も不変のものではなくて、追加するなり、拡大するなりしていけばよいと思っています。そうなるといろんな使い方が考えられますよね。

歩行空間化された姫路駅前。(撮影:公共R不動産)

馬場 姫路はメリハリがありますよね。駅前の歩行者空間は比較的茫漠としているというか、ちょっと広め。一方でその後ろのヒューマンスケールな街並みと関係付けていけたら、さらに魅力的になる。そういう、その地域ならではの特徴を踏まえた独自の戦略を、いかに立てられるのかが問われますね。

道路局との連携、マクロとミクロの視点

飯石 ではそろそろ観覧の方からの質問に移りましょうか。国交省OBの佐々木晶二さんが参加されていますのでご感想を伺ってみたいと思います。

佐々木 こういうフワフワした議論を政策に取り込むのって大事ですよね。ただそこから手段や具体的なメリットをどうつくり出すか、というところが結構大変です。世の中の勢いにも左右されるし、なかなか役所の担当レベルでできないことでもありますよね。
僕が都市再生特別措置法に関わった時は、小泉内閣で世の中が盛り上がっていたこともあり、都市再生特別地区の特例措置において、用途制限の緩和や容積率の緩和といった大胆なことができ、この法律だからこそできる規制緩和につながったと思います。
都市におけるイノベーションを誘発するために人の交流が生まれる場をどうつくっていくか、というのは今後も継続的に都市のテーマだと思うので、その手法をこれからどうやって深めていくのかな、ということに関心があります。

それから都市再生整備計画に乗っけるという手法もそろそろ限界かな、と思っています。今回も組み込むのがすごく大変だったと思うのですが、もう読み切れないほどのボリュームになっていて、制度を運用する人もすごく大変です。そろそろ整理をするタームに入っているのかと思います。

国交省道路局の方でも道路法を改正して、歩行者利便増進道路の創設を進めていますね。公共空間を活用しての賑わいとか居場所づくりにおいては、最終的には道路局が動くのが大きいので、ああいう動きともうまく連携してもらえたらと思います。今回は道路がメインになっていますが、公開空地、民有地、建物内空地など、そういうところまで今後一体的に考えられるような施策を考えられればと思うので、関心のある自治体の方とか企業の方にはどんどん今回の制度を使ってもらいたいですね。

馬場 時代の転換期におけるメッセージですね。佐々木さんは国交省のOBで、一世代前の都市政策、都市再生特別措置法をまさに書いていた方です。今連載しているPPP妄想研究会にも参加してくださっています。
佐々木さんも触れていた、道路局との連携。僕らの中では6月に道路局から出された「新型コロナウイルス感染症の影響に対応するための沿道飲食店等の路上利用に伴う道路占用の取扱いについて」が話題なのですが、あれは国交省の中で都市局とも調整がなされているのですか? 道路局と都市局のせめぎ合いだったりするのだろうか、と僕らは邪推してしまったんですが(笑)。

 全然、せめぎ合いなどなく、一緒に取り組んでいます。実際、今回の道路利活用については、道路法の改正、都市再生特別措置法の改正の両方を自治体の方々に一体的に説明するための説明資料を作成しました。

道路法改正(道路局管轄)および都市再生特別措置法改正(都市局管轄)の両制度活用の解説。併用により、相乗効果的にウォーカブル化が進められる。

また、お話のあった「新型コロナウイルス感染症の影響に対応するための沿道飲食店等の路上利用に伴う道路占用の取扱い」については、都市局から都市再生推進法人へも周知を行っているところです。
同じタイミングで同じ方向を向いた施策を道路局からも出しているので、互いに連携して、使う方が使いやすくなるように、PRを頑張っています。日頃からもそれぞれの検討会に参加するなどして問題意識を共有したりと、仲良くやっています(笑)。

馬場 縦割りの垣根がなくなっているんですね! 当然といえば当然のことですが、コンセプトを共有しているのは素晴らしいです。
道路空間が今後「居心地の良い空間」として捉え直された上で、それをどう活用していくか、というのが、都市計画の中の大きな課題になっていくのは間違いない、というのを確信します。

飯石 道路局と連携がなされることで、公共空間を活用する人にとっていちばん影響が大きいのが、警察協議のハードルが下がる点だと思います。私も南池袋公園の運営に携わっているのですが、道路を使おうとする時の一番のハードルが管轄の警察協議なんです。そこで道路局と都市局が一枚岩になっているという話は、民間のいちプレイヤーとしてはすごく心強いです。
では、さらに会場からの質問行きましょう。大阪府高石市の方から。

「今年度からリノベーションまちづくりの手法でウォーカブルのまちをつくっていきます。 自分なりにウォーカブルシティを、まがるつもりはなかったのに、まがりたくなる路地、であるとか、たたずむ気がなかったのにたたずんでしまう広場、みたいなものを考えているんですが、イメージは合っていますでしょうか?」

質問者 うちの自治体で、狭い路地に面して喫茶店を営まれている方が、時折プロのミュージシャンを招いてランチ演奏会みたいなものをされているんです。今は室内でやっているのですが、それを路上に拡張して、それを通りすがりの人が聞いたり、そこを目的に歩いてきたりする、そんな姿がひとつのウォーカブルでもあるのかな、と自分なりに解釈していたのですが、どうでしょうか。

飯石 歩くことが目的というよりも、そういう偶発的な出会いが起きるような「点」をつなぎ合わせていくのがウォーカブルな空間のイメージと捉えていらっしゃるということでしょうか。墳崎さんいかがですか。

質問に答える墳崎さん(中)、城さん(右)(撮影:公共R不動産)

墳崎 点をつなぎ合わせていくリノベーションまちづくりは、各地で盛り上がっていて、街の活性化の切り札になっていると思うんですが、「時々ゲリラ戦の限界を感じることがある」と言われたことがあります。人の歩く目線で路地に面白いスポットを埋め込んでいく、というまちづくりはもちろんすごく大事ですが、一歩引いた、まちの構造をどうつくるかという大きな視点が噛み合ってこそ本当にうまくいく、とも思いますので、おっしゃったような偶発的な出来事と、街の骨格や戦略をどう繋げていくのか、そこがポイントかなと思いますね。

馬場 街の全体の戦略といった大きな骨格は絶対に必要ですね。その中でアクティブなスポットが、街の全体の戦略の中にどう位置付けられるのか。このふたつの目線を並行して持っていないと確かに限界があります。
もちろんフレームワークを考えるのは行政、具体的なアクションを起こしていくのが民間なので、両者の連携に意味があるんですよね。民間はこれからもゲリラ的にまちの部分を楽しくしていくスタンスでいいと思うんですが、フレームワークを考えられる行政の人と連携を取りながら、常にミクロとマクロの間で視線を行ったり来たりさせること。これが重要ですね。

飯石 ありがとうございました。では次の方。

「地価上昇など、経済的な効果を求めるだけでなく、街に人が居ることが見えることによる安心感、一人であっても社会の一部と感じることのできる所属の感覚、をストリートにおいても評価すべきと考えますが、そのような価値を評価する手段をお考えですか?」

 所属意識といったご質問に対しての、直接的なお答えになるかはわからないのですが、「まちなかの居心地の良さを測る指標(案)」を、昨年度末につくりました。島原万丈さん、小﨑美希さんにご助言をいただきながら試作したものです。
これは、場所の設えや空間の快適性・魅力、そこにいる人々の行動を目視でチェックをすることで、いかに多様な活動が行われているか、まちなかの状況を自己評価できる簡単なチャートのようなものです。たとえば、指標を使った評価を、ウォーカブルに向けた取組の前と後とで実施いただき、結果を比較していただくと、必ずしも経済的な価値だけではないものが見えてくるのではないかと思っています。この指標は皆さんのご意見をいただきながら、今後も改良したいと思っています。

馬場 都市の多様性とイノベーションの懇談会でも、都市の価値を測る指標が変わったよね、と話していました。今までは定量評価が多かったけど、それだけで測れるほど単純ではなくなってきています。特に今回のようなコロナ禍では、必ずしも賑わうまではいかないようにしながら、疎だけど居心地がいい路上空間、といったあり方が生まれていますよね。そうしたところを評価する指標のひとつを示したということですね。

 まだ第一案といったところですが、是非、各地域において、ご活用いただければありがたいです。

飯石 具体的なお悩みも寄せられていますね。

「2025年までにウォーカブル区域の制定を推進する旨の意向がありました。私の住む区はウォーカブル推進都市として手を挙げていますが、具体的施策は無く、あまり積極的ではありません。民間のわれわれとしてもまちづくり団体をつくって働きかけを行っていきたいのですが、適正な担当課がわからず行き詰まっています。このような行政をポジティブにするためのよい方法はありますでしょうか。」

墳崎 まちづくり振興課がないとすると、産業振興や商業振興の部署、または企画政策に関する部署の方が、企画段階の話は受け止めやすいと思いますので、そこに相談するのがいいのかなと。
それでも困ったことがあれば国交省の問い合わせ先の方にご相談いただければ。

馬場 えっ、そんなこと言っていいんですか?!

墳崎 「ウォーカブル推進都市」を推進してますので(笑)、そういう生の声はぜひ聞かせていただきたいと思います。

馬場 今日は普段は表に出てこない国の役人の方に、一個人として率直にお話いただきました。言いにくいこともあったかと思いますが、制度をつくった人の生々しい声や、そこに込めた意思が伝わると、それに応えてどう事業化すればいいかというのも分かるし、とても意義があったと思います。
今後もこういう機会を設けていきたいと改めて思いました。僕としてもあのプロセスがこうしてリアルな都市政策に落ちていくんだ、ということがトレースできてよかったです。
今日はありがとうございました!

ウォーカブル政策まとめhttps://www.realpublicestate.jp/post/walkable-matome/

墳崎正俊(つかさきまさとし/国土交通省都市局総務課企画官)
2001年国土交通省入省、大臣官房、総合政策局、航空局、観光庁のほか、EU代表部一等書記官、山形県交通政策課長などを経て2018年より都市局

城麻実(じょうあさみ/国土交通省都市局まちづくり推進課まちづくり企画調整官)
2003年国土交通省入省。九州運輸局交通企画課長、内閣府(防災担当)、鉄道局鉄道事業課などを経て現職。

2020年6月29日、Un.Cにて収録したものに一部加筆・編集
編集:木下まりこ

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